「水の一滴、血の一滴」を読んで

「水の一滴、血の一滴」

           を読んで

                       

この作品は、深澤忠利氏のさる機関への応募作品で、246ページにわたる大作である。

 この小説は戦争の真っただ中において水の一滴がいかに大切かと言うことを主人公中野が生きるか死ぬかの緊迫した苦しい体験の中で、主人公中野を通じて読者に伝えようとしているところは、真に迫っていてひょっとして筆者は軍隊体験者ではないかとさえ思われ、読者を魅了する。

 しかし、そのはずはないのである。現在彼の職業はフリーライターであり、私より10歳も年下である。しかも彼は『この物語は完全なるフイクションであります。当時の警察組織及び呼称、作中の日・米の人物名、部隊名、刑務所などにおける建築物、役職名、階級、またそれに係る事件との関連性はあくまで作者の創作であることを念のため記しておきます。著となっていて、作者の空想力のすばらしさを見る思いがする。

 彼は三田文学で活躍しておられた入江央氏と仕事上一緒になさったことがあり、その時「知人で『えん』の雑誌を作っておる仲間がいるから一緒に協力してやって欲しいと頼まれ、10年を限りに協力を約束して、横浜の『えん』エストの会にも出席、来年がちょうど10年目である。今は入江氏も亡くなった。私は来年の9月にはもう一作、大作を出すつもりで頑張っています」とのことである。

「『えん』も72号で終わりだ、73号で終わりだなどと騒いでいないで、枯れるように自然に終わっていくのがいいのじゃないですか。」と、優しいお言葉もいただきました。

 いつも、楽し気に集まって協力してくださった仲間の顔が賑やかに応援してくれて、水の一滴が応える。一人で年間二五〇ページ以上の大作に挑まれる深澤さん「えん」も負けられません。